ストレッチによる筋力アップと柔軟性向上
ストレッチをすればコンディションが整う、パフォーマンスが高まると安易に捉えられている風潮があります。
また闇雲にストレッチをして可動域を広げればよいという誤解が生まれ、その結果、期待している効果が得られないこともあります。
ヒトの体は年齢を重ねるごとに、骨の長さや筋肉の大きさが変化します。その変化に合わせたストレッチを行うことで、適切な関節の可動域や、筋の弾性が得られ、はじめて思い通りに体を動かすことができるのです。
初めに、ストレッチをすることで期待できる代表的な効果を見ていきましょう。
①関節の柔軟性の向上
②ストレッチしている筋肉や関節の血行促進
③酸素やグリコーゲンの供給量が増えることによるエネルギーレベルの向上
④動きの連動性の向上
⑤スピードとパワーの向上
次に、ストレッチの種類とそれぞれの役割を理解していきましょう。
1.アクティブストレッチ
アクティブストレッチは、ある姿勢をとり、その姿勢に関与する主動筋の力だけで姿勢を維持します。
体を特定の位置で維持するためには、主動筋を緊張させる必要があり、その結果、共働筋が伸張し始めます。たとえば、格闘技の動きであるサイドキックのポジション(外転状態)をキープすると、内転筋が伸長して、その結果、股関節の柔軟性とキックの高さが向上します。
アクティブストレッチは、主働筋が緊張している時、拮抗筋は主働筋の動きを助けるために弛緩する、「相反抑制」と呼ばれる神経の仕組みを利用しています。
アクティブストレッチは10~15秒程度の短い時間でも効果を得ることができます。
特にヨガや格闘家、バレエダンサーはアクティブストレッチを多用しています。アクティブストレッチはほとんどのスポーツで効果的です。
2.パッシブストレッチ(受動的)
パッシブストレッチは、パートナーと一緒に行うのに適したストレッチです。
パートナーが外から力を加えている間、身体を完全に受動的に保つ必要があります。
パートナーがいない場合は、自重と重力の力を利用して行います。
パッシブストレッチは時間をかけて行うため、怪我をした後の筋肉のリハビリに適していると言われています。
3.スタティックストレッチ(静的)
スタティックストレッチは最も一般的なストレッチです。体に極端な負荷をかけないため、クールダウンの一環としてよく用いられます。
近年まで、スタティックストレッチはウォーミングアップで行われていました。運動による怪我を防ぎ、パフォーマンスを高める効果があると考えられていたためです。
しかし、それは誤解であることが分かってきました。そのことに関する3つの研究報告をご紹介します。
1)スタティックストレッチをウォーミングアップで行うと、運動のパフォーマンスを低下させ、怪我を増やす。
2)スタティックストレッチは筋肉のパフォーマンスを即時に低下させる。
3)スタティックストレッチを運動前に行っても長期的なメリットはほぼない。
4.アイソメトリックストレッチ(等尺)
アイソメトリックストレッチとは、ストレッチされた筋肉の等尺性収縮によって筋肉に抵抗を与えるストレッチです。
例えば、壁を押してふくらはぎを伸ばす方法もアイソメトリックストレッチです。
アイソメトリックストレッチは抵抗を伴うため、長時間行うことで筋肥大を促進することが報告されています。
5.ダイナミックストレッチ(動的)
ダイナミックストレッチは、穏やかな揺れを使用して、身体と手足の可動域を広げるストレッチです。
ダイナミックストレッチは、ゆっくりとしたスピードで無理のない範囲で行うため、ウォームアップとして最も推奨されるストレッチ方法の一つです。
アスリートたちは、高強度の運動を行う際の準備運動として、日常的にダイナミックストレッチを行っています。
ある研究で、高強度のアスリートを対象に、ダイナミックストレッチとスタティックストレッチの効果を比較しました。
その結果、ダイナミックストレッチのみを行った選手のパフォーマンスの方が向上しました。
しかし両方を組み合わせた選手は、全体的に可動域が改善されたことから、両方のストレッチを行うことで、優れた結果が得られることが示唆されました。
6.バリスティックストレッチ
バリスティックストレッチは弾みと筋収縮を利用して、可動域ギリギリで強制的に筋収縮を起こすストレッチです。
このストレッチはウォーミングアップで行われるストレッチの中で、最も怪我を招く方法であると認識されています。
十分なウォーミングアップを行わずにバリスティックストレッチをすることは避けてください。筋収縮が十分に可能でない状態で行うと、筋や靭帯、関節などに負担をかけてしまうからです。
体操選手や格闘家、ダンサーなどは柔軟性や可動域を広げるために日常的に使用しています。
研究によると、運動後に行うことでパフォーマンスの向上に貢献できることが報告されています。
7.PNFストレッチ
PNFストレッチは、「固有受容性神経筋促進法」とも呼ばれ、能動的かつ受動的な可動域を広げることにより柔軟性を高めることができるストレッチの方法です。
ある研究によると、高強度の運動の後にPNFストレッチを行うと、筋力と筋量のどちらも大きくできることがわかりました。
PNFはさまざまあるストレッチの中で最も推奨されます。
PNFは自動抑制、相反抑制、ストレス緩和、ゲートコントロール理論の4つの反応を引き起こし、柔軟性を飛躍的に向上させることができます。
ストレッチはいつ行うべき?
運動前のウォーミングアップでストレッチを行う場合は、動的ストレッチかPNFのどちらかが効果的です。
それ以外のストレッチは、運動後など筋肉が十分に温まってから行うことで怪我のリスクを軽減することが出来るでしょう。
研究によると、運動前にストレッチを行っても、怪我を減らす効果は示唆されず、反対に、筋肉が力を発揮する際に影響を与えていることが分かっています。
一方同じ研究では、運動後のストレッチは、可動域を広げて筋力やスピードを高める効果があると示されています。
ストレッチは自分の体をより良くするために、間違いなく必要なものと言えるでしょう。
ポイントは、ストレッチを行うタイミングと種類を慎重に選ぶ必要があるという事です。
筋肉の機能を維持するために、特定の種類のストレッチに固執するのではなく、常にさまざまなストレッチを行う事が重要です。