ストレスは多くの人にとって暴飲暴食の引き金となります。研究によれば、ストレスを感じるとエネルギー密度の高い食品を過剰に摂取する傾向があることが分かっています。特に、甘いものや高脂肪の食品が好まれることが多く、これは一時的に脳内の報酬系を刺激し、幸福感を得られるためだと考えられています。この現象は「感情的摂食」または「ストレス性摂食」と呼ばれ、ストレスを抱える際に脳が過剰に働き、過食を促進する神経メカニズムが背景にあることが研究で示されています。また、これには個人差があり、ストレスに対する反応として特定の食品を選ぶ傾向も観察されています。
暴飲暴食と肥満の関連
繰り返される暴飲暴食は、カロリー過剰摂取を引き起こし、結果的に体重増加や肥満のリスクを高めます。特に、過食性障害(Binge Eating Disorder: BED)を持つ人々は、肥満になる可能性が高いことが示されています。これには、食欲をコントロールする脳内ホルモン(例えば、グレリンやレプチン)のバランスが乱れることが関与していると考えられています。また、暴飲暴食を繰り返すことで消化器系に過度な負担がかかり、胃腸障害や栄養の偏りによる免疫力低下など、心身両面に悪影響を及ぼす可能性があります。
肥満と糖尿病リスクの増加
肥満は2型糖尿病発症の主要なリスク因子の一つです。過剰な体脂肪、特に内臓脂肪の蓄積はインスリン抵抗性を引き起こし、これにより血糖コントロールが悪化します。内臓脂肪は脂肪細胞から炎症性物質やホルモンを放出し、これが全身の代謝に悪影響を及ぼすことが分かっています。特に、インスリンの働きを阻害するアディポカインと呼ばれる物質が増加することで、糖尿病リスクが高まります。さらに、過食性障害(BED)を持つ肥満患者は、代謝プロファイルが不良であり、血圧やコレステロール値の異常、慢性的な炎症などを伴うケースが多く、心血管疾患や糖尿病のリスクがさらに上昇すると報告されています。また、こうした患者は生活習慣の改善が難しい場合があり、心理的サポートと合わせた包括的な治療が必要です。

運動習慣の重要性
この悪循環を断ち切るために、運動習慣を取り入れることが非常に重要です。運動は以下のような多面的な効果をもたらします。
1.ストレス軽減効果
運動はストレスホルモン(コルチゾールやアドレナリン)の分泌を抑制し、エンドルフィンと呼ばれる「幸福ホルモン」の分泌を促進します。これにより、ストレスが軽減され、感情的摂食の衝動を抑える効果が期待されます。
2.気分改善効果
定期的な運動は、不安やうつ症状を軽減し、気分を向上させます。この効果は感情的摂食の根本原因にアプローチする助けとなります。
3.体重管理
運動によりカロリー消費が増加し、体重管理がしやすくなります。特に有酸素運動と筋力トレーニングを組み合わせることで、効果がさらに高まります。
4.代謝改善
運動はインスリン感受性を改善し、血糖コントロールを助けます。これにより、糖尿病リスクを低減することが可能です。
5.自己効力感の向上
運動を続けることで自己効力感が高まり、ストレス対処能力や生活全般に対する自信が向上します。
効果的な運動習慣の取り入れ方
運動習慣を効果的に取り入れるためには、以下のポイントに注意しましょう。
1.段階的な開始
急激に運動を始めると、挫折や怪我のリスクが高まります。最初は軽いウォーキングやストレッチなどから始め、徐々に運動量を増やすことが大切です。
2.楽しめる運動の選択
自分が楽しめる運動を選ぶことで、習慣化しやすくなります。例えば、ダンスやヨガ、サイクリングなど、ライフスタイルに合った運動を選びましょう。
3.社会的サポートの活用
グループ運動やフィットネスクラスに参加することで、仲間と一緒に楽しみながらモチベーションを維持することができます。
4.定期的な実施
週に150分以上の中強度の有酸素運動を目標とし、定期的に実施することが推奨されています。また、週に2回程度の筋力トレーニングを組み合わせると効果的です。
5.ストレス管理技法との併用
運動と併せて、瞑想やヨガなどのストレス管理技法を取り入れることで、相乗効果が期待できます。
ストレスによる暴飲暴食、それに伴う肥満と糖尿病リスクの増加という悪循環を断ち切るには、運動習慣の導入が非常に効果的です。運動は単なる体重管理の手段ではなく、ストレス軽減や気分改善、代謝改善など、さまざまな健康効果をもたらします。
自分に合った楽しめる運動を見つけ、無理のない範囲で段階的に習慣化することで、健康的なライフスタイルを実現しましょう。
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