日常の歩行から見える脳の健康

日本の統計では、将来的に認知症になる可能性が高い軽度認知障害も推計で400万人とされています。2024年現在ではさらに高齢化が進み、この数字はますます大きくなっていくことでしょう。歩幅や歩行速度は、日常生活での基本的な動作ですが、近年の研究でこれらが脳の健康状態に深く関係していることが分かってきました。特に、歩幅が狭くなったり歩行速度が低下したりすることが、認知機能の低下や認知症リスクの増加と密接に関連している可能性があります。

なぜ歩幅が狭くなるのか?

歩幅が狭くなる原因は、筋力の低下や柔軟性の不足、バランス感覚の低下など、さまざまな要因が関与しています。下記は、その主な原因と考えられている一例です。

1. 筋力の低下:特に股関節や太ももの筋力が低下し、大きく足を踏み出すことが難しくなり、歩幅が狭くなったり、歩行が不安定になったりすることがあります。

2. 柔軟性の低下:股関節や脚部の柔軟性が低下すると、前方に足を踏み出す動作が制限され、自然と歩幅が狭くなります。柔軟性の不足は、特に運動不足や加齢に伴って進行することがわかっています。

これらの要因が組み合わさることで、日常生活での歩行が難しくなり、認知機能への影響が出ることが示唆されています。ある研究では、歩行速度の低下と記憶力の低下が同時に進行すると、認知症リスクが大幅に高まることが示されています。歩幅が狭くなることは、脳の前頭葉や海馬といった部分の萎縮や血流の減少と関連しており、これが記憶力や注意力の低下を引き起こす要因となり得るのです。
さらに、歩行は脳に多くの情報刺激を与える重要な活動であり、歩くことが減ると周囲の環境からの視覚・聴覚的な刺激が減少し、脳への情報入力が少なくなります。また、歩く際には脳から筋肉へと指令が送られ、筋肉を動かすことで神経系が活発に働くとされています。これらのプロセスが減少することにより、脳の活動が低下し、認知機能の衰えに繋がる可能性があります。

パーソナルトレーナーとしてのアプローチ

クライアントが歩幅を改善し、安定した歩行を取り戻すために、トレーニングプログラムに組み込むことを推奨します。以下は、幅広い年齢層に適したトレーニング方法の一例を紹介します。

1. 柔軟性と可動域を広げるストレッチ:股関節や脚の柔軟性を高めるストレッチは、歩幅を自然に広げ、歩行のスムーズさを改善します。
・レッグスウィング: 片足を前後に振ることで、股関節や脚部の可動域を広げ、歩行の柔軟性を高めます。

2. コアトレーニングで姿勢とバランスを強化:体幹(コア)を強化することで、姿勢やバランスが向上し、歩幅を維持しやすくなります。 
・壁プランク: 壁に手をついて行うことで負担を軽減しつつ、体幹を強化します。
・バランスボードを使用したトレーニング: バランス感覚を強化し、歩行中の安定性を向上させ、転倒のリスクを減らします。

3. ウォーキングトレーニング:正しい歩行フォームを意識しながら行うウォーキングトレーニングは、歩幅や歩行速度の改善に役立ちます。
・ヒール・トゥ・ウォーク: かかとからつま先にかけて体重を移すことで、安定した歩行を促し、歩幅を広げます。
・ウォーキングランジ: 足を大きく踏み出すことで、股関節の可動域を広げ、歩幅を意識的に改善します。

トレーニング前、中、後の注意点

・トレーニング前は、軽い運動やストレッチで体を温め、体調を確認し、十分な水分補給を行いましょう。
・トレーニング中は、正しいフォームを保ち、呼吸を止めずに、無理のない範囲で負荷をかけ、集中力を切らさないようにしましょう。
・トレーニング後は、静的なストレッチでクールダウンし、タンパク質を摂取して筋肉の修復を促し、十分な睡眠をとるようにしましょう。

歩幅の狭まりは、筋力、柔軟性、バランス感覚の低下などが原因となり、脳の健康や認知機能に影響を及ぼす可能性があります。パーソナルトレーナーとして、これらの問題に対処するために適切なトレーニングを提供することで、クライアントの健康をサポートし、認知症リスクの軽減に寄与することができます。特に、歩行トレーニングやストレッチを通じて、日常生活での歩行を改善することが、健康的なライフスタイルを維持する鍵となるでしょう。
参考文献:National Institute on Aging(National Institute on Aging)(National Institute on Aging)JAMA Network(JAMA Network)

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